ここ最近の「金曜ドラマ」枠は、全体的には良作に恵まれた枠とは言えるものの、
1/4の確率でハズレ作品が出てくる…といった印象。
しかし、今年に入ってからは期待ほど満足出来ない
(片方は期待を大きく裏切られた(苦笑))作品が続いた分、
正直、脚本家は確信が持てなくても、金10枠でお馴染みとも言える
塚原あゆ子監督×新井順子プロデューサーのタッグで、
今度こそ成功するか…?と大きな望みをかけていたのですが、
そこは期待通り「多くの視聴者(ドラマ好き)に好かれる金10が帰ってきた!」と
喜べる仕上がりになっていて安心しました。
久しぶりに、これなら間違いないと思える作品に出会えそうです。
喋りに勢いがあり、心地良いテンポを生む有村架純さんと、
屁理屈なのか繊細なのか、境界線が曖昧で不思議なオーラをまとった中村倫也さんの
お2人による会話劇を楽しめるライトな面を持ち合わせながらも、
物語の根底には、声を上げたくても怖気づいて中々上げられない弱者が
一歩前に踏み出してみるまでの”ほんのちょっとの勇気”が一貫して描かれていた。
サブタイトルの「そんなコトで訴えます?」は、
弁護士に頼りたくても、様々な事情で「いやいや…」とつい否定してしまいがちだったり、
職場の人間関係において、自分だけが我慢すれば
大事にならずに済む…とつい避けがちだったりする、人々の心の声を代弁する言葉であり、
本編こそが「『そんなコト』なんて思わず、誰だって声を上げて良いんだ」という
“アンサー”になっていたんですね。
全ての国民は法の下に平等である事、
「声を上げていただかなければ、お手伝い出来ません」などと、
本作を通して訴えたいテーマは何なのかを初回で明確に提示してくれたのも良かったんですが、
それ以上に、個人的に本作を好きになれそうだと思えたのは、
職場いじめによって引き起こされる侮辱罪、名誉毀損、強要罪、暴行罪についても
理由を述べてちゃんと言及してくれた所。
こういうのって、ドラマ内でそれを想起させる描写があっても
視聴者がツッコむだけで終わり、
個性強めな主人公やドラマチックな演出を加えて、一見解決したように見せても
根本的な部分では解決出来ておらず、最終的に消化不良感が残るケースが多いので、
少しホッとした感覚を覚えたんですよねぇ。
石田(有村架純)と羽根岡(中村倫也)も同じく心に傷を抱えた弱者だからこそ、
この2人の背景にもどこかできっちり触れてくれるんだろうし、
救い上げたいと心から思える依頼人に寄り添っていく、
ささやかなヒーローになるまでの過程が描かれていくんだろう…という、
そんな期待を膨らませる初回だったと思います。
強いて言えば、あくまでも依頼人の大庭(赤楚衛二)視点で話が展開していったためか、
大庭を標的にしようとした動機は何だったのかが不透明で終わった事、
不当な理由で大庭を左遷した会社、特に支店長や彼に加担していた社員たちには
何のお咎めもなさそうだった事、
そして、組織的ないじめを行うような会社に居続け
同じく窮屈な想いを抱えていた沢村の今後には言及しなかった事など、
大庭以外の会社の人間、関係性については、脳内補完ではとても補えそうにないほど
ふんわりとした描写だったので、少し疑問は残りました。
最低限の説明があっても良かったのかもしれません。
ただ、終盤の方の、支店長を座らせ羽根岡がひたすら饒舌で語るシーンは
一見コメディちっくでありつつも、
見方を変えれば、「誰にでも訴える権利はある」を可視化しているとともに、
加害者である彼ももしかしたら
何かそうさせるに至った被害者でもあったのかもしれない?とも考えさせられたので、
こういった物語の奥行きを深めてくれるようなシーンを盛り込んだのは
中々上手い”業”でもあった気がします。
また終盤のシーンの話になりますが、夕陽を使った演出もグッと来ましたね。
羽根岡が怯えている中、一歩進んでみんなに声をかける石田の後ろ(右側)にあった夕陽が、
今度は、勇気を出せた事でわだかまりが解けてなくなった大庭と沢村の所にいて、
2人の雪解けを祝福するかのように真ん中に映っている。
根底にある温かさを映し出す演出は、塚原あゆ子監督らしいとも言えます。
石子と羽男、これからも2人の勇姿を見届けていきたいです。
Source: りんころのひとりごと。
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